2026年2月
有限会社 CR-ASSIST
CR-ASSISTでは、休眠預金活用事業(資金分配団体:居住支援全国ネットワーク)として、「奥能登不動産に伴走する居住支援事業」(2024年12月~2025年11月)を実施しました。

能登半島地震以降、多くの住宅が倒壊し、2025年末時点で人口の1割以上(若い世代では3割近く)が地域外へ転出したほか、未だ多くの方が広域避難を余儀なくされています。
このままでは、住家の修繕や建替えが十分に進まず、公費解体だけが先行し、仮設住宅退去後の住まいが確保できないまま地域外への転出者がさらに増加することが懸念されます。
この流れを止め、仮設住宅退去後を見据えた「地域住民が安心できる居住環境」を維持し、地域経済を支えていくためには、単なる住まいの提供だけではなく、エリアマネジメントの視点を持った物件の把握・活用が重要になると考えています。
今回実施した「奥能登不動産に伴走する居住支援事業」では、奥能登で数少ない専業の不動産事業者として活動する「能登不動産株式会社」を対象に、以下の取り組みが行えるよう仕組みづくりを提案し、伴走支援を実施しました。
- 被災者を対象とした相談支援拠点の開設
- 地域の利用可能な物件の把握・流通
- 被災者ニーズに沿った修繕やモデルプランの作成
地方都市における生活再建を考えた際、どうしても自力再建や復興公営住宅という選択肢が中心となりがちですが、地域の中で既存の戸建て物件を確保・活用していく流れは、社会的コストの抑制にもつながります。地元の不動産事業者が、被災者に寄り添いながらエリアマネジメントの視点を持って住まいやテナントを核とした地域経済を循環させていくことは、あるべき復興の姿であり、このような事業者を支えることが地域の持続的な再生にもつながります。
本事業を通じて、能登不動産株式会社が、被災者支援を業として行う「社会的不動産事業者」のモデルとして認知されていくことを期待しています。
能登不動産株式会社について
能登不動産は、能登半島で数少ない専業の不動産事業者です。のと宅地建物取引業組合の構成員として、能登町および珠洲市の「空き家バンク業務」も受託しています。
奥能登エリアの売買・賃貸仲介を主軸に空き家の調査・登録から移住希望者へのマッチングまでを一貫してサポート。田舎暮らしを志すU・Iターン希望者の受け皿として、地域の定住促進と空き家問題の解消に貢献しています。
能登半島地震後は、被災者、住宅所有者、復興関連事業者からの問い合わせに数多く対応しています。

能登不動産株式会社
代表取締役 玉地正幸
宇出津タ字77番地14
https://notofudousan.com/

相談支援拠点の開設
能登不動産内に「奥能登くらしの相談室」を開設しました。
https://notofudousan.com/soudanshitsu
行政とは独立した民間の被災者相談窓口として、能登不動産内に「奥能登くらしの相談室」を開設しました。
ここでは単なる賃貸物件の紹介にとどまらず、被災した自宅の「被災状況の確認」「修繕」に関する実務的な相談、公的支援制度を活用した「生活再建支援」の相談など、住まいとくらしの再建に関わるあらゆる困りごとをワンストップでサポートしています。

相談員には、これまで奥能登への移住相談業務を担ってきた経験豊富な職員を配置。被災者支援制度も学び、行政、支援団体とも連携しながら、制度の狭間にある悩みにも柔軟に対応できる「災害ケースマネジメント」の実践体制を構築しています。 拠点での相談に加え、各地で開催される出張相談会にも積極的に参加、被災物件の現地調査を行うなど、被災者に寄り添った支援を継続しています。
出張相談会の実施(JOCA,能登町と連携)
2025年6月 柳田地区
7月 松波地区
8月 宇出津地区
11月 鵜川地区

相談実績(2025年1月~9月)
能登半島地震から1年が経過した2025年1月以降の相談実績をまとめました。 「借りたい」・「買いたい」を合わせた需要総数に対し、物件の供給数は半数以下にとどまっており、需給バランスが大きく崩れているのが現状です。 特に、被災者の「購入(定住)」意欲や、復興支援層の「賃貸」ニーズに対応するための、物件の掘り起こしが急務となっています。




賃貸需要:復興支援と移住の受け皿(計152件)
「借りたい」という相談が最も多くなっています。 内訳を見ると、復興工事関係者や支援団体、および被災地域外からの移住希望者(その他個人)が大部分を占めているのが特徴です。復興事業の本格化に伴う活動拠点の確保や、地域外からの新たな人の流入が賃貸需要を牽引していることが見て取れます。
売買需要:被災者の定住意欲(計101件)
「買いたい」というニーズにおいては、事業者からの相談が限定的である一方、被災者自身からの相談が一定の割合を占めています。 これは、仮住まいとしての「賃貸」ではなく、「持ち家」での生活再建を望む層が根強く存在していることを示しています。もともと賃貸物件に居住していた方が住み替えることができる賃貸物件が少ないことも影響しています。
供給サイド:地域外所有者の動向と圧倒的な不足(計105件)
供給側(貸したい・売りたい)の相談件数は合計105件にとどまり、需要総数(計253件)の半数以下という厳しい状況にあります。 特に「売りたい」相談(76件)では、地元被災者に加え、相続等により地域外に居住する所有者からの処分・売却相談も目立ち始めています。一方で、「貸したい」という相談は29件と極めて少なく、復興人材や移住者を受け入れるための賃貸物件不足は深刻化しており、空き家の掘り起こしは喫緊の課題といえます。
復興を通じて考える、不動産事業者の役割
本事業を通じて、災害からの復興において地元の不動産事業者が果たすべき役割は、発災からの時間経過とともに大きく変化し、かつ多岐にわたることが明らかになりました。
1. 災害フェーズごとに変化する「住まい」のニーズへの対応
災害発生直後から復興期に至るまで、地域には多様な「住まい」のニーズが発生します。これらに即応できるのは、地域の物件情報を把握している不動産事業者であると考えます。
発災直後: 緊急的な避難先としての物件情報の提供や、安全な避難用物件の確保に向けた問い合わせへの対応。
避難所期: 復興支援に入る工事関係者や支援団体の活動拠点確保。また、自宅が半壊未満等の判定を受け、避難所には入れないものの修理が必要な「在宅被災者」への住環境のサポート。
仮設期: 民間賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設住宅」の提供・斡旋、および一般賃貸物件への円滑な誘導。
仮設退去期(復興期): 復興公営住宅への入居や自力再建が困難な層に対し、既存ストック(空き家・中古住宅)を活用した受け皿の提供。
本事業を通じて、災害からの復興において地元の不動産事業者が果たすべき役割は、発災からの時間経過とともに大きく変化し、かつ多岐にわたることが明らかになりました。
2. 「社会的不動産事業者」に求められる機能と可能性
不動産事業者が営業している地域においては、単なる仲介業務にとどまらず、被災者の住まいの解決に寄り添うことができる「社会的不動産事業者」としての不動産事業者が、被災者の生活再建において不可欠なピースとなります。
平時からの地域物件の把握(ストック活用): 被災前の段階から地域の空き家、利用可能な物件を把握しておくことは不動産事業者の本来業務(仕入れ)であり、有事の際に迅速なマッチングが可能となります。
「顔の見える関係」に基づく伴走支援: 地域に根差した信頼関係(顔の見える関係)を基盤とすることで、マニュアル通りの対応ではなく、被災者一人ひとりの希望や事情に寄り添ったきめ細かい支援が実現できます。
「住まい」と「くらし」の包括的支援: 「奥能登くらしの相談室」のように、被災状況の確認、物件の修繕、物件紹介というハード面の支援に加え、生活相談や被災者支援制度の紹介といったソフト面の支援を一体的に行うことで、被災者の安心感が向上します。
専門家・行政との連携ハブ機能: 行政と連携することで、複雑な支援制度の利用を円滑化させます。さらに、建築士や弁護士、司法書士等と連携することで、建物の技術的課題や権利関係などの複雑な課題に対し、ワンストップで解決策を提示する役割を果たします。
このような地域を知り尽くした不動産事業者が、その専門性を社会のために発揮すること。それが、誰一人取り残さない復興を実現するための鍵であると考えています。
物件の改修
本事業を通じて、2件の物件改修(拠点物件・住居用物件)を実施したほか、5件の典型的な被災住宅について、修繕モデルプランおよび、モデルプランに基づいた修繕費用の試算などを行いました。
なお、モデルプランについては、能登不動産へ相談にきた方のみに提供する非公開資料として作成しています。
拠点物件



事業期間の活用
本事業のスタッフや、修繕のために現地入りする工事業者の「宿泊拠点」として稼働させました。
宿泊資源の少ない地域で、活動拠点を確保することで、スムーズな事業展開を行うことが可能となりました。
出口戦略(将来の活用)
事業終了後は、被災者、復興支援員、工事関係者向けの「シェアハウス」として運用します。
また、物件の広々としたリビングを活かして地域への「住み開き」を行い、住民同士が集えるコミュニティスペースとしても開放していきたいと考えています。
地域への波及
地域の人々にシェアハウスというスタイルはまだなじみが薄いため、12月には「オープンハウス」として、地域の方々に空間を体感いただき、趣旨を説明する機会を設けました。
住居用物件のモデル改修



市之瀬地区にある既存の住宅をリノベーションし、復興期における多様な住宅ニーズに応える多目的シェアハウスとして稼働させていきます。当面はニーズの高い、復興支援員や工事関係者の生活拠点として貸し出し、複数人・世帯が入居できる形で、地域の復旧活動を足元から支えていきます。
中長期的な活用
被災者にとって、仮設住宅での生活は、精神的な負担が少なくありません。そうした方々が一時的に仮設住宅を離れ、心身をリフレッシュするための「リトリート(休息)」目的での短期利用も受け入れ、息抜きの場としても活用を想定しています。ほかにも、移住希望者が本格的な移住の前に地域を知るための「短期・中期滞在拠点」としても活用を想定されます。
周辺環境の整備
近隣で進む公費解体により生じた空き地を活用し、一画を駐車場として再整備する予定です。変わりゆく地域の状況に合わせ、利便性の向上を図っています。
能登町の居住資源の現状、能登不動産の役割

現在、能登町において仮設住宅での生活を余儀なくされている世帯は、建設型仮設住宅で約570戸、みなし仮設住宅で約120戸にのぼります。 これらの方々の生活再建に向け、町では災害復興公営住宅の整備計画が具体化していますが、その規模は入居希望のある約260世帯を対象とした戸数にとどまっています。
しかし、仮設住宅入居者のうち、公営住宅への入居希望を出していない約300世帯のすべてが、自力再建が可能な状態にあるとは限らないのが実情です。また、地域外のみなし仮設に居住する約120世帯の中には、能登での再建に対して消極的にならざるを得ない方も多いと考えられます。
実際に、日々の相談業務を通じて、資金的な理由などから「自力再建」が困難な世帯が多く存在することが明らかになっています。中でも「準半壊(一部損壊)」の判定を受けながら仮設住宅に入居している世帯は、公的支援の狭間に置かれやすく、今後の住まい確保が最も困難になることが懸念されます。
人口流出を食い止めるためにも、こうした「自力再建も公営住宅入居も難しい層」に対し、被災者支援の制度、福祉制度とも連携しながら既存ストックを活用した安価な賃貸住宅を提供する。このようなきめ細かな支援こそが今の能登に必要な機能だと考えています。
1年を通じて、能登不動産株式会社が被災者や移住者の相談支援も含めた物件仲介ができる「社会的不動産事業者」としての役割を担うようになったこと、そして相談支援事業を継続していく土台ができたことが本事業の成果となります。
